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daitube

Author:daitube
 「魚突き」ときどき「Bboy」でおなじみのYouTubeチャンネル「DAITUBE」です。

 使用している銛は「2mアルミ銛+土佐銛先」、ウエットは3mmを上だけ着たり着なかったりという軽装。ダンスのジャンルは「Breakin」で得意技はハイチェアです。

 鹿児島市内を拠点に、自転車で旅をしながら魚突きキャンプをしています。主に今年は離島旅にチカラを入れてます。

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運び屋と呪われた依頼品①

 たけやんの仕事について誰かに話をするのは、今回が初めてだ。

 きっと、たけやんの職業については多くの方が偏見を持つだろう。だが、それでも私は、彼の仕事について話をしたい。私をここまで育て上げてくれた彼の仕事について、だ。

 単刀直入に言おう。彼の仕事は、非社会的だ。快く思わない方は必ずいる。だから先に断っておく。どうか、たけやんを責めないでくれる方のみ、この話を聞くこととして欲しい。


 さて、前置きが長くなってしまっては申し訳がない。早速始めることとしよう。


 皆さんはコインロッカーというものを知っているだろうか? 駅やスポーツジム、そして銭湯などには今でもよくあるサービス。それは、お金を入れると鍵が閉められるロッカーだ。

 大きな声では言えないのだが、たけやんの仕事というのは、そのコインロッカーに関係している。

 コインロッカーは今では有料のものが多いが、使用後にお金が返ってくるタイプのものも少なくはない。だけれど、折角返ってきたそのお金を回収し忘れる、なんてことを皆さんは経験にお有りではなかろうか。


 これは彼から聞いた話に過ぎない。だから信憑性は確かではない。そのことだけは頭に入れておいてほしい。


 たけやんが私に話してくれた彼の職。それは、皆さんの取り忘れたそのコインをだ、それをポケットに仕舞うというものだ。ロッカーの前に立ち、右見て、左見て、誰もいないと確認してから返却口の百円を摘む。そうやって町じゅうのコインロッカーを巡る。その業一つで私を十五歳まで育て上げた、この道五十年の大ベテランなのである。



 ――と、いう話を私はずっと信じていた。



 しかし、十五歳の誕生日の日、私は彼の本当の仕事について聞かされることなった。





 たけやんは、夜遅くに帰ってきた。

 河川敷のプレハブ小屋の前に立ち、たけやんはそのシワだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして笑っている。その様子から察するに、三日間に渡る遠征の稼ぎは上々のようだ。

「おかえり、たけやん!」私は言って、たけやんを出迎える。彼の黒いつなぎ姿は夜の闇に溶け込むようであり、少し発見が遅れてしまった。私が急いでプレハブ小屋の引き戸を引くと、彼は十二月の冷たい外気と共に中へと入ってきた。

「ゆきな、留守番ご苦労。何でも食いたいもんを言ってみろ!」言って、たけやんは歯並びの悪い歯を見せ、にかっと笑うのだった。

「うーうん、食べたいものはないよ。今日はもう、お芋を少しかじったから――」と私が言うと、

「馬鹿言うな! 育ち盛りの分際で遠慮など、五年と三日早い!」と、荒っぽい口調でこう返すのだった。

 たけやん曰く、遠慮とおとなのふりかけは二十歳になってから、なのだそうだ。それはつまり、あと五年と三日で私は二十歳になるということでもある。いや、正確に言うと、河川敷生活が二十年目になるということなのだが。



「じゃあ、お鍋が食べたい。あったかいお鍋が……」

「そうだ、それでいい!」たけやんは言い、また顔をくしゃっとさせて笑った。

 たけやんと私は、この河川敷でホームレスの「ような」生活をしている。「ような」と表現したのは、他の路上生活者とたけやんとでは少し違う点があったからだ。もちろん、それはたけやんの仕事のことだ。コインロッカーのコイン返却口を漁るという彼の職人としての腕は確かならしく、最低でも月に三十万は稼げるのだそうだ。だから私たちは比較的良い暮らしをしていた。プレハブ小屋こそが、彼のその力の象徴だ。


「ねぇ、たけやん。今回はどこまで行っていたの?」アウトドア用のバーナーコンロをテーブルの上に置き、私が問いかけた。たけやんは具材と鍋を準備しながら、それに答えた。

「ああ、ちょっと隣町までな……」

「え? じゃあ、河の向こうにまで行ったの?」

「ああ――」言いながらたけやんはこちらを見て「ゆきなは絶対に隣町に行ってはダメだぞ」と釘を刺すように言った。
たけやんはいつもそうだった。河の向こうの町は危険だから近づくな。私にはそう言うくせに自分は平気で渡っている。

「大丈夫だよ、行かないよ」と、私が言うと、たけやんは安心したようで、また顔をくしゃっとさせた。



 鍋の蓋を取ると、まっ白な湯気がぶわっと上がった。冬のプレハブ小屋では、この湯気がすでにごちそうだった。

「わあ、美味しそう!」

「さあ、思う存分食べるんだ」

 久しぶりの温かい料理。身も心も温もるこの暖かさは、一体どこからくるのだろう。ほとんど白菜だけの目の前の土鍋からか、いや、向かい合って食事をするたけやんの存在からだと思う。

「なあ、ゆきな――」不意にたけやんが箸を置き、言う。「三日後の誕生日には何が欲しい?」

「いいよ、そんな。欲しいものとか、ゆきなはそんな我儘なんて言わないよ」と私が言うと、たけやんは例に倣ってまた荒い口調でこう返すのだった。

「馬鹿言うな! 子供の分際で我儘をしないなど、五年と二日早いわ!」

 たけやんの二十歳カウントダウンが「五年と二日」になったことにはっとして、私は時計を見た。時刻は丁度零時になっていた。

 たけやんはこういうふうに、記念日とか期日や時間に対して馬鹿みたいに真面目だった。そして、何かと変なルールを作るのだ。変なこだわり、といってもいい。



「あと五年と二日経ったら我儘なんて絶対にさせるもんか。だから今のうちにしておけ!」

 たけやん曰く、人が我儘を言っていいのは十代までらしい。ちなみに、午後ティーを飲んでいいのは十二時から零時までの間らしい。

「そんなこと言われても――」と、私は悩まされる。欲しいものを思い浮かべられるほど、私は世の中にどんなものがあるのかさえ知らないのだ。

「何かあるだろう? ほれ、ほれ」と、たけやんは急かしてくる。

「じゃあ――」私は思いを巡らせてみた。今、欲しいもの、必要なもの。「あ、あったよ。欲しいもの!」

「おう! 何だ? 遠慮せず言え! 遠慮は二十歳からだが、ゆきなはやっと十五歳になるばかりなんだからな」

「うん!」私は遠慮せずに言った。「たけやんの仕事を、ゆきなにも教えて欲しい!」と。



 しかし、言った途端、たけやんの表情が曇った。



「ゆきなには無理だ……」と、たけやんは厳しい口調でそう言うのだった。

「そんなことないよ! コイン返却口のお金を拾うだけでしょ? ゆきなにだってできるよ!」

「いや、ゆきなは勉強して、もっと立派な仕事に就くべきだ」

「だったら、たけやんの仕事こそ立派だよ! だって、ゆきなをこんなにまで育ててくれたんだから! それに、いつまでも養ってもらってばかりじゃ、ゆきなだって申し訳ない」

「親が子を養うのは当たり前だ。そんなツマランことは考えるんじゃない」

「で、でも、たけやんはゆきなの本当の親じゃないじゃん!」私のこの言葉に、たけやんは一瞬、ひどく寂しそうな顔をした。しかし、それでも私は続けた。「ゆきなは、恩返しがしたいの。ゆきなを拾って、ここまで育ててくれたたけやんに!」

 たけやんが私を見つけてくれたのは、彼の仕事場である駅のコインロッカーだったそうだ。その日は今日みたいな凄く寒い日で、私は酷く泣いていたらしい。たけやんはコインロッカーから私を見つけると、仕事の手を止め、抱き上げてくれたのだと言う。その日が十二月十五日だったことから、私の誕生日は十二月十五日になった。

 たけやんは無言のまま立ち上がると、ポーチを担いでプレハブ小屋の出入り口に向かった。そして、「とにかく、ダメなものはダメだ」と小さな声で言い残し、夜の闇に消えてしまった。


つづく
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