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daitube

Author:daitube
 「魚突き」ときどき「Bboy」でおなじみのYouTubeチャンネル「DAITUBE」です。

 使用している銛は「2mアルミ銛+土佐銛先」、ウエットは3mmを上だけ着たり着なかったりという軽装。ダンスのジャンルは「Breakin」で得意技はハイチェアです。

 鹿児島市内を拠点に、自転車で旅をしながら魚突きキャンプをしています。主に今年は離島旅にチカラを入れてます。

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運び屋と呪われた依頼品③

 駅に現れたのは若い男だった。

 たけやんとは正反対で、その肌にはシワもなく綺麗で、顎も鼻も尖っていた。



 彼は私の手にある封筒を一瞥すると、近寄ってきてこう言った。

「君がタケさんの?」

 声は小さく、早口で、言葉少なめといったカンジだったが、彼がそうであることは十分に察せたので、私は黙って手紙を差し出した。

 彼はふんふんと中を確かめると、そうか、と一言呟いた。


「あのう、ゆきなはこれからどうなるの――?」私は尋ねたが、彼は質問に答えてはくれず、持っていたバッグをただ私の前に置いた。

「これに着替えろ。これから移動するのに、目立たない格好をするんだ」

「目立たない格好?」私は首を傾げたが、彼はそれ以上何も言わなかった。良くいえばクール、悪くいえば暗い。そんな印象だった。



 トイレに入ってバッグの中を確認した。中には二つ。黒いマウンテンパーカーと、黒いワークキャップだった。その黒に統一された衣装に、私はたけやんを思い出したりもした。


 電車に乗るのは、生まれて初めての出来事だった。景色が物凄いスピードで後ろに移動する様には驚きを覚えたが、感動とまでには至らなかった。どうやら、今の憂鬱な気分がそうさせてくれないようだ。


 どこに向かっているのか、何から逃げているのか、どうして襲われたのか、何が起きているのか。聞きたいことはいくらでもあった。が、向かいに座るこの寡黙な若い運び屋は、何を問いかけても話してはくれなかった。投げかけた質問は外の景色と一緒で、どんどん後ろに流れていくだけのようだった。



「約一時間半だ――」と、突然、目の前の運び屋は言った。「そこで降りたら、待機している同業者にお前を引き渡す。三人の運び屋で、お前をある場所にまで運ぶ。それが今回の仕事だ……」

「ある場所……?」と、私は詳しい説明を求めた。が、それ以上は何も教えてはくれなかった。

 質問を変えてみよう。

「どうして私をそこに運ぶのですか?」

「仕事だからだ」

「仕事と言いますと……?」


 男は口を閉ざした。どうやら会話はもう終わりのようだ。必要なことしか喋らない。その顔に書いてあるようだった。彼は運び屋で、私はただの依頼品なのだと。


 私はもう質問するのは諦め、シートに深くもたれ掛った。流れゆく景色を眺めながら、そっと今までのことを回想した。

 あの後、地下道に押し込まれたあの後、私はもう無我夢中で走った。でも、たけやんを見捨てて逃げることに涙は止まらなかった。怖くて寂しくてたまらなかった。


 立ち入ることを禁じられ続けていた隣町に入るときには、いやに勇気がいった。が、入ってみると変わったことなど何もなかった。いつもの町と何ら変わらない、治安も悪くない、そんな印象を受けた。

 いや、ただ一つだけ異変があった。それは、この町に入ってからずっと感じている「視線」だ。それは町に一歩踏み込んだその瞬間から、電車に乗った今もずっと続いている。何かが私を見ている。一体何なのだろう。そういえば、たけやんは別れ際に何か言っていたな。確か「お前の身にどんなことが起きるかは分からない」と。

 今まで平穏に暮らしていたのに、何で突然こんなことに……。





 ある方向から、冷たいものを感じる。

 真っ直ぐに伸びて来るそれは、微かな力で、私の体を刺している。

 ただ、物理的なものではない。確かな感触ではなく、物体に接している感覚はない。

 それでもそれは確かに存在していて、這うように私の体を移動する。

 指先から、手の甲へ。手の甲から、手首へと。それはゆっくり移動した。

 肘、腕、肩、そして首筋へと登りつめる。ぞっとした。悪寒が全身に走った。

 我慢ならず、私はついに目を見開いた。


 黒い物体が、目に飛び込んできた。


 人間ほどの大きさの、黒いもの。よく見るとそれは人間の髪の毛が大量に集まってできた塊のようであった。

 その巨大な髪の塊からは、か細い四肢がにゅっと出ている。青白い肌の手足だ。それは関節を無視して歪に折れ曲がっていて、四足歩行でやっとバランスを取っているようだった。一言で言うと、不気味であった。


 そして、それには目もあった。髪に覆われていてすぐには気付けなかったのだが、長い髪の毛の向こう、赤く光る球体が二つ見て取れた。


 私は悟った。この視線こそが、先ほどの冷たく刺すような感覚の原因であると。そしてそれは、町に入ってからずっと感じ続けている視線と同じものだ。私は終始、この視線によって体を辱められていたのだ。


 赤いそれは突然、形を歪めた。目だけでも充分にその表情が読めとれた。それはこのとき、間違いなく笑った。ニタァと、舐めるような視線を向けて来た。


 私は直後、自分の悲鳴で目を覚ました。


「どうした!?」と目の前の若い運び屋が、私の顔を不審そうにのぞき込んで来た。

 私は酷く汗をかいていた。息も乱れていた。さっきのものが夢であるとは俄かには信じられない、そんな後味が残っていた。強烈なリアリティであった。

「ハァ……ご、ごめんなさい。ただの……夢です」

「何を見た?」と、彼は凄むように問うてきた。

「え?」と、彼の予想外な食いつきに私は一瞬たじろいだ。

「夢で何を見た?」


 今まで何の興味も示してこなかった彼が初めて食いついてきたのが、夢の話。そんな重要なことではないだろうに、と不審に思いながらも、私はその詳細と町に来てから感じ続けている「視線」について彼に話した。
すると彼は「想像より随分早いな……」と、毒づいた。

 不安を覚えた私は、一体何が起きているのか説明を求めて彼を見つめた。が、やはり例の如く、彼は何も語ろうとはしなかった。運び屋は、ただ「あと三十分だから……」と、到着時刻を確認してそう言うだけだった。





 電車が突然止まった。

 駅に着いたからではない。長いトンネルの途中、突然車両の電気が全て消えたのだ。

「何!?」私は突然の暗闇に驚き、身を竦めた。パニックに陥ったのは私だけでなく、他の乗客たちも大いに騒いでいるようだった。

「ちっ! あと五分もすれば着いたものを……」と、暗闇の中で運び屋の声がした。

「一体どうなってるの?」と、私はうっすら見える目の前の影にそう尋ねた。が、やっぱり答えは返ってこなかった。

「やむを得ない。ここからは歩いて進むぞ」言い、目の前の影はガサゴソと荷物を漁り、ライトを取り出した。

 彼はライトの光を窓に向けると、「窓を割る。離れていろ」と告げ、缶のプルタブを開けるような音を二度鳴らした。その音がサプレッサー(消音器)付きの銃声だと知ったのは、ガラスの割れた窓枠から外に降りた後だった。



「どうしてワザワザ歩くの?」私は、光を照らしながら先を行く影に、質問を投げかけた。「電車がまた走り出すまで待っていればいいじゃん? 何で?」

 聞いておきながらこう言うのも何だが、正直、また無視されるだろうと思っていた。が、予想外なことにも、目の前の影は立ち止まって私の方を振り返った。

「そうだな。電車がまた走れるのなら、その選択が正解だろうな」

「ん? それって、つまり――」面倒くさい言い回しに理解が遅れつつ、私は彼の言わんとしていることを確かめる。「あの電車はもう走れないってこと? 何で?」

「普通のトラブルなら非常灯がついたはずだ。だが、さっきのはどうだ? 俺がライトを出さない限り、暗闇だったろ? 電車はただ止まったんじゃない。止められたんだ。原因もなくな!」影はそれだけ言うとまた前へと進み出した。



 電車で五分は、歩いて何分に相当するのだろう? 私たちは随分長く歩いているが、景色はトンネルのままで、一向に出口の明かりは見えてこなかった。


 気が狂いそうだ。その理由としては、暗闇という効果が一役を担っているのは確かだ。しかし、それ以上の理由がもう一つ、私にはあった。


「ねえ、運び屋さん――」私はたまらず、声を出した。「あのね、さっきから、そのぉ……すぐ近くから気配がするの。それも凄く大きな――」

 そうだ、背後の暗闇から、異常な気配を感じていたのだ。

 しかし運び屋は一切構うことなく、すたすたと前へ進み続ける。

「ちょっと! ねえってば!」私は怖くなり、駆け寄った。どういった対処も取ってもらえないなら、せめて二人で歩きたい。一人では絶対に嫌だと、前を進む影との距離を縮めた。しかし、すぐ異変に気付いた。

「運び屋さん……どうしたの?」


 彼は異常なほどの汗をかいていた。その表情は強張っており、怯えているようにも見えた。

「距離にして、あと八百メートルだ……」運び屋は不意に言った。「あと八百メートルも進めば駅に着くはずだ。そこで、次の運び屋が待ってるんだ……」

 それは、彼が私に段取りを教えてくれているようにも聞こえたし、彼がゴールはもうすぐだと自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

「なあ――」運び屋がこちらを見た。「感じる視線は、今も強くなってきているのか?」

「うん」私は頷いた。

「今は、どういう感じなんだ……?」

 私は少し考えを巡らせる。今の感覚を表す言葉を探した。

「何と言うか……その。視線の主が、凄く大きくなっているみたいなの……。夢であれを見たときは、人と同じ大きさだったの。でも、今はそれが何倍にもなっている。トンネル内の闇全てがそれみたいな。ただの闇じゃない、夜の海に突き落とされたような感じです」

「……そうか」と、運び屋は無表情なままで言った。それは冷静というよりも、諦めたというか、覚悟を決めたというか、そういう落ち着き方をしているようだ。

「ねえ、教えて! 一体、あれは何なの? 何で、ゆきなのことを見てるの? ねえ、どうしてなの?」
私は必死に疑問を訴えた。が、彼は求めていることとは全く違うことを言ってきた。

「ライトはおまえが持て。俺が後ろを歩く……」彼は急に後ろを警戒して歩き始めた。「もし俺に何かがあっても、お前は構わず進むんだ。走るんだぞ! いいな!」

「縁起でもないこと言わないで下さい! もし何かが……って、一体何があるって言うんですか?」


 運び屋はもう何も答えなかった。代わりに黙々と歩き続けた。そして――。



「あと、三百メートルほどだ!」と久しぶりに彼が言葉を発したときだった。続いて私がその声に振り返り、あと僅かですね、と彼に安堵の言葉をもらそうとした丁度そのときだった。


 運び屋の背後に、二つの赤い目があった。その赤い目は、じっと私の方を見ていた。


「どうした?」と、運び屋は固まる私に尋ねて来た。その直後だった。赤い目の見つめる先、私の持っていたライトが突然光を失ったのだ。

「どうした?」と、彼が言った直後、「うわああー!」と悲鳴が上がった。

「は、運び屋さん!?」ライトは点かず、真っ暗で何も見えない。

「は、走れっー!」


 私はたまらず駆け出した。走った。走った。ひたすら走った。でないと恐怖に押しつぶされそうだった。背後からはプルタブの音が二度、三度した。が、続いて聞こえて来たのは運び屋の悲痛な叫び声だった。


 恐怖が限界に達した。息の仕方も、足の動かし方も忘れてしまったように、ただもがくように逃げる。得体の知れないものに命を握られ、暗いトンネルを文字通り闇雲に走らされているのだ。当然、私は足元の注意もままならず躓き、転んでしまう。そして一度倒れたが最後、腰が抜けてもう立ち上がることもできなくなってしまった。


「ひいっ……!」暗闇に怯えて縮こまる、弱い存在だった、私は。


 暗闇の中からは、ずるずると、何かが這うような音がする。それはだんだん大きくなる。


 そっと、顔を上げてみる。すると、赤い目玉が、さっきよりも近い場所にあった。目玉は、私の全身を舐めまわすように見つめ、徐々に、徐々に、近付いてくる。


「い、い……いや!」声もまともに出なかった。恐怖で体が動かない。しかし、赤い目は容赦なく私に迫りくる。大きな目に見つめられ、今にも発狂してしまいそうな。そんなときだった。


 黒い影が、私と赤い目の間に立ち塞がった。


「逃げるんだ……!」影がそう言い、途端に私は抱き上げられた。そして、私を抱えたその若くも勇敢な運び屋はそのまま走り出した。

 最後に、血走った二つの眼が悔しそうにこちらを睨んでいるのが見え、私の意識はそこで途切れた――。





 私は、何もない場所を走っていた。

 そこでは、どんなに走っても、どんなに激しく足を動かしても、景色は全く後ろに流れなかった。

 背後からは気配、鋭い視線、這いずる音。前に進めない自分とは裏腹に、それらは刻一刻と迫りくる。


――どうして前に進まないんだ――。そんな焦りがさらに呼吸を荒くする。前に出した脚は地面を捉えられないまま空を切り、力むばかりで空回りしている。次第に手足には乳酸が溜まって感覚がなくなり、動かすことも困難となる。

 まるで、深い水の中で足掻くようだった。ここは人間のテリトリーではない。はじめから自由などないのだ。

 そして、ついに、背後の何かに追い付かれる。青白い手が、私の首を掴もうとした――。



 目が覚めた。まばゆい光が目に入ってきた。いつの間にか、外に出ていたようだ。


 辿りついたのは、山の中の古いプラットホームだった。人気はまったくなく、酷くもの寂しい印象を受けた。

 視界の高さがいつもよりも高い。私はあれからずっと、この寡黙な運び屋によって担がれたままだった。


「もう歩けますから……!」と、私は自分を抱えて歩く若い運び屋に訴えた。

 彼は酷い息遣いで、目もまともに焦点が合っていない。執念だけで歩いているというような、そんな様子だった。

 しかし、気力の限界は不意に訪れた。前に踏み出した脚がガタガタ震えて膝をつき、そのまま前に倒れ込んだのだ。


「きゃっ!」放り出された私は砂利の上に転がった。「だ、大丈夫ですか!?」と、倒れた運び屋に目を向ける。が――。
運び屋は、もうぴくりとも動かなかった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」私は繰り返した。「ゆきなのせいで――」

 私は、彼の名前すらまともに聞いてなかったことを今になって気付き、随分やるせない気持ちになった。自分のせいで傷つく人を、助けることも止めることもできない。自分は一体何なのかと絶望したくなった。



「彼はね、自分の仕事を全うしたのよ。だから悔いなんてきっとないわ――」と、突然、背後で声がした。


 私が驚き振り返ると、真っ赤なレザースーツに身を包んだ三十路のおばさんがいた。

「あ、あなたは?」私は問いかける。

「彼からあなたを引き継ぐ、二人目の運び屋よ!」とその人は答えた。


 その女運び屋は大きなバイクに乗っていた。ヘルメットは二つ持っていて、片方を私に手渡してきた。


「さあ、これ以上ここに留まっている訳にもいかない。先を急ぐわよ!」

「で、でも……」私は言い、力尽き倒れた寡黙な運び屋の方を見た。「この人を置いて行くわけには……」

「ジンはもう死んでいる。さっきも言ったでしょう? 彼は仕事のために死んだの。だからこそ、この仕事をやり遂げなければ彼は報われない」

「ジン……? この人の名前ですか?」

「ええ、そうよ。彼の名前はジン」

「わかりました……。そのお名前を、私は一生忘れません」


 私は彼の遺体に深く頭を下げた。その名前を絶対に忘れまいと心に刻んだ。自分を救ってくれた、その若き運び屋の名を。
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