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daitube

Author:daitube
 「魚突き」ときどき「Bboy」でおなじみのYouTubeチャンネル「DAITUBE」です。

 使用している銛は「2mアルミ銛+土佐銛先」、ウエットは3mmを上だけ着たり着なかったりという軽装。ダンスのジャンルは「Breakin」で得意技はハイチェアです。

 鹿児島市内を拠点に、自転車で旅をしながら魚突きキャンプをしています。主に今年は離島旅にチカラを入れてます。

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運び屋と呪われた依頼品④

 電車の次はバイク。二人目の運び屋によって、私は寂れた山道を運ばれていた。

 カーブの多い急勾配。進む度に、だんだん少なくなってくる民家、だんだん細くなってくる道路。

 一体、どこへ運ばれているのだろう。そもそもあれは何で、何故私を追いかけるのか。疑問だらけ。何一つ分からない。私はもう限界だった。


「ねえ、おば……お姉さん――」と、私はしがみついているレザースーツの背中に語りかけた。

「ヒロコちゃんって呼んで」と、目の前の女ライダーは前を見続けたまま言った。「で、それより、さっき渡した人型の護符は絶対に手放しちゃダメよ」

「はい、ちゃんと持ってます」言いながら、私は手の中のそれを再度確認した。


 バイクを走らせる前、女運び屋改めヒロコちゃんは私に和紙でできた人型を手渡してきた。彼女はそれに私の髪の毛を一本貼り付け、何やらまじないをしていた。


「そう、ならいいの。それがあなたの身代わりになってくれるからね」と、ヒロコちゃんは意味深なことを言った。

「あのう、ヒロコさん――」私は問いかけてみることにした。「どうしてゆきなは運ばれているんですか?」

「ん? これが私の仕事だから」とヒロコちゃんはあっけらかんとして言った。

「いえ、そういう意味でなくて――」

「ああね、だって、あんたあれでしょ? あの家の子供だったんでしょ?」

「あの家の子……? ごめんなさい、ゆきなは捨て子だったのをたけやんに拾われて……だから、産みの親とかは知らなくて――」

「ああ、そうだったわね。まあ、もともとこれは、タケさんの仕事だったし、私は彼から聞いた程度でしか知らないんだけどね――」

「た、たけやんの仕事? 何を知ってるんですか? 教えてください」

「ええ、いいわ。教えてあげる」ヒロコちゃんは言って、コホンと咳払いしてから続けた。

「タケさんが隣町って言ってるこの町にはね、ちょっと悪どい資産家がいたの。お金は持ってたんだけど、人から恨みも大分買ってるような人でね。で、そいつを恨む人の中には呪術に詳しい人も居たの。で、その人はあるとき、憎き資産家に呪いをかけたの――」


 私はごくりと唾を飲み込んだ。


「その呪いはね、命をも脅かすほど強力な怨念の塊によって資産家を追い詰めるものだったの。逃れるには、財産を全て捨ててこの町を去る以外にはなかった……。でもね、その資産家はしぶとかった。呪術には呪術で対抗することによって、他の逃げ道を見出したの」

「他の……逃げ道?」

「ええ……。その頃、資産家の妻は子をはらんでいてね。資産家はその子供に目をつけたの。呪術を用いて、災いの全てを子に背負わせようと目論んだの。つまり、呪いの対象を自分たちからその子に移すことをね……!」

「まさか……それって……」話の本筋が見えて来た気がした。

「身代わりのまじないを成功させるには、必要なものがいくつかあるの。簡易的なものには髪の毛や爪とか、自分の体の一部を用いたものが多い――」


 私はそれを聞き、さっきいただいたこの人型もその一つなのだと思った。私の髪の毛を使ったこの人型は、どうやら簡易的な身代わり呪術のようだ。


「でも、血を使ったものはもっと強力なの。そう、だから、自分の血を分けた子を使ったものとなれば、それはかなり高度な身代わりになり得たの……」

「でも、それじゃあ、その子供は……?」

「――ええ。心中、お察しするわ……」



 これは私にとってかなり大きなショックだった。自分を捨てた産みの親は、どうやら想像していた以上に酷い人間だったようだ。


「……でも、それなら何で私はずっと無事だったの?」と、素朴な疑問が口をついて出た。

「さっきも言ったわよね。呪いから逃れるには『財産を全て捨ててこの町を去る』方法があるって。あなたはずっと川を隔ててあちら側に居たから、災いが降りかかっていなかったの」


 なるほどな、と私は納得した。だから、たけやんは隣町に行くなと厳しく言ってきていたのだ。いや、ちょっと待てよ……。


「でも、それじゃあ、何で私は、この町に戻る必要があったの? 河の向こうに居たら、呪いは無効化できていたんでしょ? どうして?」


 しかし、ヒロコさんはそこで黙り込んでしまった。もちろん私は納得できず、さらに疑問を投げかける。


「そ、それに、たけやんの仕事だったって、どういうこと? それって、もしかして……」嫌な想像が、脳裏を過る。「もしかして、私は拾われたんじゃなく、運び屋の仕事として預かられていただけなの……?」


 ヒロコさんはこれについて、何も答えようとはしてくれなかった。それどころか、全く別の話をし始めた。


「血を用いた身代わり術と言ってもね、完璧ではないの。その身代わりが先に朽ちたなら、その矛先は今度こそ本人に向くわ。だからあなたも単純に死なせてはもらえなかったの。……でも、噂によると、身代りで呪いを完全に相殺する儀式もあるんだとか――」

「と、いうことは……その……。たけやんの仕事っていうのは、ゆきなをその儀式の場所へ運ぶこと、だったの?」

 自分で言いながら、私は身を引き裂かれるような想いだった。長年信じ続けていた彼との関係が、もしかしたら偽りだったのかもしれないのだから。


「――さあ、私には分からない。彼が請け負った仕事と、今の仕事とは違うから。ただ、タケさんが依頼されたのは間違いなくその資産家だろうけど、私に依頼をしたのはタケさん。――もっとも、この場合、彼が完遂できなかった依頼を私たちに託したというふうに捉えるのが自然だろうけれど……」


 それではほとんど私の読み通りではないか。


 私の目からはとめどなく涙が溢れていた。何を信じればいいのか、もう分からなくなっていた。私は、本当の一人ぼっちになってしまったんだ。

「……本当に、何も聞かされていなかったんだね――」ヒロコさんは私のおえつを聞いてか、そう言った。

「はい……」そう返事した私の声が震えていた。「たけやんは自分が運び屋だってこともずっと隠していたし、さっきのジンさんも何も喋ってくれなかったから――」

「まあ、運び屋としては、無闇に仕事内容を話すのはルール違反だからね……。仕方ない部分もあるとは思うよ……」

「ヒロコさんは、優しいんですね……」

「え、私が優しい?」

「……ええ、だってルール違反になるのに、ゆきなに教えてくれたじゃないですか」


「ふふ、ルールねえ」と、ヒロコさんは笑いながら言う。「いい? ルールってのは網タイツと一緒なの」

「え、網タイツと?」その奇妙な発言に私は何だこの人は、と思った。「どういうことですか?」


「つまり、どちらも破られるためにあるの」

「ああ……そういう趣味」私は若干、引いた。

「あなたもオトナの女になったら、いつか分かるかもね」


 そう言ったヒロコさんの声は妖艶だった。分かりたくはないが、私もこんな強い女にはなりたい。そう思い、彼女のその変な性癖も理解しようと頑張ることにした。





 夕暮れ時の山の眺めというのは、素晴らしいものがあった。

「綺麗ですね、ヒロコさん」

「ありがとう」

「ん? いや、ヒロコさんのことじゃなくて! いや、ヒロコさんもなんだけど……何て言うか、その……」

「分かってるわよ」ヒロコさんの声は笑っていた。「景色のことでしょ?」

「はい」

「――でも、これはあまり良い状況ではない……」

「え? どうしてですか?」と、私は尋ねる。

「奴は、暗闇に潜むから……」


 その言葉で私はあれを思い出し、身の毛がよだった。


「聞いた話によると、あれは闇や夢の中から襲ってくるんでしょ? でも、この調子だと、次の運び屋のポイントに着けるのは日暮れ頃だわ……」


 嫌な沈黙がうまれ、また鬱な気持ちになった。せっかくヒロコさんに会え、意気投合できる相手ができたと思っていたのに。突然、現実に引き戻されてしまった。

「大丈夫――」私の震えに気付いてか、ヒロコさんは言った。「私が何としても守り抜くから」


 頼もしくて、優しいその言葉に、私は泣きたくなり、彼女の背中をさらにぎゅっと抱きしめた。
冬のこの季節は、日が落ちるのが本当に早かった。夕暮れはあっという間に終わり、辺りは薄暗くなっていた。


「寒くない?」

「大丈夫です」言い、私は彼女の背中のぬくもりを感じていた。


 進めば進むほど、視界は闇に覆われて行く。心細くなればなるほど、私は彼女の背中にしがみついていた。


「今は何も感じない? ほら、視線とかは――」言ったヒロコさんの声は震えていた。流石に緊張してきたようだ。

「はい、今は不思議と何も感じません……」

「そう? ならいいのよ……」


 本当に良いのだろうか? 私にはかえってこの静けさが怖くも感じる……。そんなときだった。


「うっ!」突如凄まじい寒気が全身を突きぬけた。突然のことで、私は何が起きたのか把握できない。

「どうしたの?」

「何か、急に寒気が……」

「ええ!?」ヒロコさんは心配して、こちらを振り返った。

「ヒロコさん目の前!」


 そのとき私の目に映ったもの。それは、進行方向の道路にうずくまる何かだった。


「キャッーーー……!」


 バイクはそれに真っ直ぐ突っ込んだ。寸前になり、私はそれが何か分かった。黒い髪の塊、青白い手足、そして赤い目……奴だった。


 ぶつかった衝撃はほとんどなかった。髪の塊には大した重量もなく、むしろ、バイクは奴の身体を真っ二つに引き裂き、進み続けた。


「え、今の?」と、ヒロコさんは状況を把握できていないふうだ。

「や、やった……!」と、淡い期待が私の頭を過った。


 瞬時に振り返る。敵の様子をうかがう。さっきそれが居た場所には、無数の髪の毛が散っていた。本当にやっつけてしまったのか? と、思った直後だった。


 ずるずると、それらは中央に集まり出し、元の形に再生していった。髪の毛が合わさり出し、みるみる人の形を形成していく。

「ダメみたい……!」


 その魔物は私たちへの追跡を開始した。その歪な手足で、道路を這って追い掛けてくる。捻じれた左手は甲の部分で地面をとらえ、バタ足のように動かす右足は空を蹴るばかり、左足は引きずるだけ。問題なく機能しているのは右腕一本のようだ。所詮、折れ曲った手足での四足歩行。その様子は痛々しくおぞましいが、速度的にはたいしたことはない。


「いや、大丈夫! あんなのがバイクのスピードに追い付く訳がないよ」

 私のその言葉の通り、魔物の姿は視界の隅へと小さく消えていった。このまま振り切れる。私はそう信じ、微塵も疑わなかった。しかし、甘かった……。


 ドドド…ド…ド……ド…………と、突然、バイクのスピードが落ち始めた。


「ど、どうしたんですか?」私は前に向き直った。

「何でよ、何でなのよ……!」ヒロコさんは取り乱していた。「どうしてよ? こんな髪の毛が、何で、どうして――!」

 見ると、バイクの前輪には無数の髪の毛が絡み付いていた。奴を引き裂いた際に付いたそれらにはまるで意思があるようで、バイクをとらえて放さない。


 ヒロコさんは必死でそれらを掴んでは引き剥がし、掴んでは引き剥がしを繰り返す。が、焼け石に水状態で、背後の魔物の影は徐々に追い付いてくるようだった。


「ヒ、ヒロコさん、追いつかれます!」

「分かってるわよ、分かってるわよ! だから今、このバイクを走らせようと、やっているんでしょう!?」

 冷静さを失ったヒロコさんが、叫んでは、髪の束を両手に掴んで投げ捨てる。ヒロコさんは明らかに取り乱していた。だが、それも当然だ。たとえそれが誰であろうと、こんな状況に立たされてしまっては普通でいられるはずがない。

 私は泣きながらもう一度後ろを振り返った。さっきまで消えかけていた追跡者の影は、もう随分近くに来ていた。

 こちらが動けなくなっていることに気付いてか、背後のそれは顔を出してにんまりと微笑んだ。いや、微笑んだと言っても、やつの顔にはパーツがない。髪の塊が形成する顔面には、赤い目玉があるだけだ。


 奴はその赤い目を細く歪ませ、カタカタと顔を揺らす。狂ったように手足を動かす。その度に折れ曲った手足はさらに変形していく。しかし、魔物はそれを全く辞さない様子。たとえ己の四肢がもぎ取れようとも、追い続けて来るのだろう。



――不意に、私は、最後に見た夢を思い出した。あの夢の中で、私は、逃げようと懸命に足を動かすのだが、まったく前に進めず、やがて……。


「ヒロコさん早く、早く!」

「もうちょっと、もうちょっとだから……!」ヒロコさんは自分をなだめるようにそう繰り返した。懸命にバイクから髪を引きはがす。そして、次第にバイクは前に進むようになってきた。速度はないが、何とか前に走り出した。


 私はまた後ろを振り返った。……しかし、若干の差で、相手の方がまだ速かった。どうやら振り切ることはできそうになく、距離はまだまだ縮まって行く。本来ならば簡単に振り切れる速度なだけに、余計に焦ってしまう。


 しかし相手はそれを楽しんでいるようだった。怯える私たちを焦らし、弄んでいるのだ。


「もう、ここまでね……」突然、ヒロコさんがそんなことを言った。

「え?」嫌な予感がした。

「このままでは追い付かれるわ。……身代わりの護符を、私に貸してちょうだい」

「ヒロコさん?」

「いい? これから私はバイクを停めるわ。そしたらあなたは息を止めて、バイクから降りて。奴は私が引き離す。姿が見えなくなるまで、絶対息を吸ってはダメよ。身代わりの護符とはいえ、あなたの気配が消えていなければ、効果がないの……」

「で、でも、そうしたらヒロコさんは……?」

「私なら大丈夫。ギリギリまで引き付けて危なくなったら護符を捨てて逃げるから。それよりごめんね……この先はあなた一人に行ってもらうことになる――。でも、こうするしか他に道はないと思う」


 私は正直イヤだと思った。一人になるなんて耐えられない。行かないで、と言いたかった。だが、彼女はそんな私を振り払うかのように、即座に行動に移った。


 キキィー! と音を立て、バイクは停まった。そして、彼女は私の手から護符を掴み取った。私は諦め、息を止めてバイクを降りた。


「じゃあ、いくね……」ヒロコさんは一言そう残し、バイクをUターンさせた。

 エンジンを轟々とふかし、彼女は危険を顧みず、山道を逆落としに駆けた。私の体重分軽くなったのと、下り坂になったということからか、スピードも少しは良くなったようだ。彼女のバイクは衝突の寸前で魔物を回避し、その横を通過した。
奴は慌てて方向転換をし、私の身代わりを持つヒロコさんのあとを追いかけた。恐ろしい呪いの矛先が、私から彼女の身へと変わったのだ。


 涙が止まらなかった。何度も何度も祈った。ヒロコさん、どうか死なないで――と。

 二つの影はやがて小さくなり、ついには消えた。
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