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daitube

Author:daitube
 「魚突き」ときどき「Bboy」でおなじみのYouTubeチャンネル「DAITUBE」です。

 使用している銛は「2mアルミ銛+土佐銛先」、ウエットは3mmを上だけ着たり着なかったりという軽装。ダンスのジャンルは「Breakin」で得意技はハイチェアです。

 鹿児島市内を拠点に、自転車で旅をしながら魚突きキャンプをしています。主に今年は離島旅にチカラを入れてます。

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運び屋と呪われた依頼品⑥

 初老の呪術者は、まず、私に深い謝罪をした。彼が恨んでいるのはあくまで私の親だけであり、彼としても身代わりの呪術を用いられたのは不利益なことであったのだ。


 彼は一度失敗してから、あれからも何度も呪殺を試みているのだそうだ。が、未だに効果が上がらないでいた。恐らく、相手方は他にも多くの身代わりを用いているのだろうと、今回のたけやんの話から分かったと呪術者は言った。


「――とはいえ、十五年間逃げ続けていたことで、呪いの力がかなり強まっています。払うのにはかなり負担があるかもしれません……が、私のせいでこうなったことです。責任持って、お嬢さんを払いましょう」


 そう言ってくれた呪術者は穏やかで温厚な方のように思えた。こんな人が人を呪うなんて……とてもそんなイメージに結びつかなかった。きっと、よほどの恨みがあったのだろう。

 準備にもうしばらく時間がかかるのと、儀式は睡眠時に行われるということで、もうこのまま休むようにと私は部屋に案内された。そこは囲炉裏のある小さな部屋で、私はすぐに横になった。


「ここまで大変だったんだ……ゆっくり休め」たけやんはそう言ってくれた。

「うん、ありがとう」私は言い、頷いた。でも目は閉じなかった。私を見守るたけやんの柔らかい表情をもう少し見ていたいと、そう思ったのだ。

「ねえ、たけやん?」

「あん?」

「ゆきなを拾ってくれた日、つまりゆきなの誕生日。たけやんは本当にめでたいと、そう思ってくれた?」

「ああ、もちろんだ。当たり前だろ」

「でも、最悪の誕生日だった……」と、私は意地悪く言ってみた。

「……す、すまん」

「来年は、きっと良い誕生日になる?」

「ああ、きっとなる」

「たけやんがそうしてくれる?」

「……ん、いや、そう言われてもだな……」

「何よそれ、約束できないとでも言うの?」

「いや、そういう訳では……」


 たけやんが戸惑うなんて何だか珍しいな、とこのとき私は思った。


「何? もしかして、まだ何か隠しごとでもあるの?」

「い……いや、そんなことはない。ただちょっと、あれだ。面と向かってそんなこと言われると、照れちまうだろう」


 聞き、私はくすりと笑った。「たけやんだけが本当の親だからね。私は幸せだからね。――だから、もう絶対に一人にしないでね」

 たけやんはまた照れているのか、何も返事をしなかった。そしたら何だか私まで恥ずかしくなり、彼に背中を向けた。静かな夜。背中に感じるこの温もりは、一体どこから来ているのだろう。囲炉裏からか、それとも私を見守ってくれるたけやんの眼差しからか。


「――ツマランことは言ってないで、さっさと寝るんだ。目が覚める頃にはきっとすべてが終わっている」

「はぁい……」

 だんだん瞼も重くなってきた。久しぶりの安心感だった。





 夢の中で、話し声がした。

 小さな空間の中、そこでも私は目を閉じたままだった。そうして聞こえた声は、余りに微かでしっかりとは聞き取れない。が、二人の男が話しているのは確かだ。そして、その一人がたけやんだということも……。

「――娘さんと過ごす最期の時は過ごせましたか?」

「ああ……」

「そうですか。しかし、このようなウソ。私としては胸が痛みます……」

「仕方ないだろう。……死ぬと知れば、この子は絶対にこの儀式を受けない」

「ええ、そうでしょうね……」



――何の話だろうか。部分的に聞き取れたものだけでは、それが何の話かは判断でき兼ねた。が、直観的に、私にとって良い話ではないような気がした。が、ただの夢だよ、とそう思いなおし、私は気にしないようにした。そして、深い深い眠りに落ちて行く。
次に夢を見たのは、それからしばらくしてからだと思う。


 私はそのとき、あの視線を感じていた。そう、ヒロコさんと別れてからはずっと忘れていた奴の気配だ……。あの化け物が、あの呪いが、またしても私の身に迫っている。


 ヒロコさんは追い付かれてしまったのか、いや、今は人の心配などしている余裕などなかった。

 すぐに、ぞくりと悪寒が走った。肌で感じる狂気。身代わりを噛まされたことで、それは怒り狂っているのかもしれない。怨念の力が、今までとは比にならないほど強大になっている。


 やばい、やばい、やばい。今回ばかりは本当にやばい。夢の中であろうが今度こそ奴に捕まれば命はない。私はそれを悟った。儀式が睡眠時に行われるというのはつまり、夢の中で、私はこの魔物と闘い勝たねばならないということだったのだ。


 狭い空間の中、這いずる音が、私に近寄っている。目を開けなければ……! しかし、体が言うことを聞かない。これが金縛りというものだろうか。いや、夢の中なのだからそういう訳ではないだろう。が、いずれにせよ、危険は察知しているのに私は今どうすることもできないでいる。


 ドスンといった、手を床につく音。

 ボキリっといった、骨の折れる音。

 ズルズルといった、髪の塊が摩れる音。

 カタカタといった、頭を揺らす音。


 それらの音は決して大きなものではない。が、それらが徐々に徐々に大きくなっていく。つまり、すぐ傍まで来ているという実感。
やがて、耳元で聞こえた激しい息遣い。その直後、首にひんやりとした感覚……。それが奴の手に掴まれた感触だと気付くよりも早く、私の意識は遠のき始めた。


 首を絞められているというのに不思議と苦しくない。ただ、意識だけがどんどん薄れていく。自分の体がどこにあるのかも分からなくなっていく。このまま私は消えていくのだろうか。――いやだ。

 私は思った。――消えたくない!――と。

 その強い想いを以ってして、私はやっと目を見開くことができた。視界に映ったのは血走った赤い目、畏れ続けたその目を、私はキッと睨みつけた。





「きぃえええーい!」

 目を覚ますと、そこは囲炉裏の部屋ではなかった。薄暗く、やや広い部屋だ。私はその真ん中に寝かされており、目の前では呪術師のおじいさんが奇声を上げていた。知らぬ間に、何かの儀式が始まっていたようだ。

「たけやん!?」私は周りを見回した。しかし、辺りに彼の姿はなかった。「おじいさん?」私は必死になって問いかけた。「たけやんはどこ?」

「今はいません……」そう言い、呪術師はこちらを振り返った。その肩には、青白い手が乗っていた。

「おじいさん……?」

「儀式は終わりました」言った呪術師の背後では黒い大きな影が蠢いていた。それが奴であると気付き、私は戦慄した。私は勝ってなどいなかった。奴はそこにいるのだ。呪術師の背後からこちらを見ているのだ。赤い目玉を歪ませて。

「な、何で? まさか……そんな……」

 さっきの夢を思い出した。夢の中で会話をしていたのはたけやんとこの呪術師で間違いない。彼らは言っていた。「最期の時」、「このようなウソ」、「死ぬと知れば、この子は絶対にこの儀式を受けない」と。

「助けてくれるんじゃなかったの……?」

「――安心して下さい。もうすぐのはずです……」と、呪術師が言った。その直後のことだ。


 バタンと音がした。部屋の戸を誰かが蹴破る音だった。その方向を見ると、居たのは、たけやんだった。

「依頼の品だ……!」たけやんは言い、手にしていたものを呪術師に投げ、その場に崩れ落ちた。投げたのは、短い棒のように見えた。


 呪術師がそれを受け取る。と、すぐさまそれを両方向に引っ張った。短い棒は二つに分かれ、半分以上が赤黒く染まった刃が現れた。どうやらそれは、ただの棒ではなく鞘に納まっていた短刀のようであった。

「呪術を成功させるには、しばしば必要なものが生じます。簡易的なものでは髪の毛だったり、爪だったりします。が、対象者の血液ともなれば、呪術の威力はより強力なものとなるのです……」


 呪術師はそう言い終わると、血塗られた短刀を後ろの魔物にかざした。途端に眩い光が発生し、魔物の姿は消えた。
辺りは静寂に包まれた。


「一体、これは……?」何が何だか分からず、私は呪術師に問いかけた。

「呪いは元の対象者のもとへ向かったのです」

「え?」

「つまり、あなたはもう自由なのです」

「元の対象者? それって、もしかして、ゆきなの生みの親のこと……?」ということは先ほどの血液というのは……。

「タケさんは――」呪術師は言った。「運び屋として、私の頼んだものを運んできてくれたのです……。危険も顧みずに……」
私はたけやんのもとへと駆け寄った。彼は部屋の入り口付近で倒れたままだった。

「ゆ、ゆきな……」たけやんは苦しそうに声を絞り出した。「腐り切ったお前の親を、死なない程度に刺してきてやったぞ……! ま、まあ、おかげでワシも手酷くやられたんだが……」見ると、彼自身も傷だらけであった。
――そうか、そういうことか。私は全てを悟った。

 「最期の時」、「死ぬと知れば、この子は絶対にこの儀式を受けない」。それはつまり、儀式を成功させるには、たけやんが命を落とすほどの危険を冒さなくてはならず、それを知れば私は彼を止めただろうということ。最期の時とは、たけやんの最期だったのだ。


「どうして……」

 もう絶対に一人にしないでね、私がそう言ったとき、たけやんは何も答えなかった。それは照れていたからではない。死を覚悟していたからだ。

「何でこんなこと……」

 彼は言ってくれていた。ワシがお前を救ってやる、と。最初からこうすることを彼は決めていたのだ。

「泣くな、ゆきな……」たけやんは言った。「お前のことはヒロコに任せてある。これからはアイツが面倒を見てくれる。ヒロコのことだ。来年の誕生日は、きっと幸せな日にしてくれるさ……」

「そんなのいいよ! たけやんがいないと、ゆきなは……!」

「仕方ないだろ……。身代わりを解くこの儀式には、身代わりにされたお前と、奴の血が必要だったんだ。ワシが死んででも野郎の血を運んでこないと、お前はずっと呪われたままだったんだぞ……!」

「でも、たけやんを犠牲にしてまで生きたくない!」

「そう言うな。ワシは、自分が死んででもお前に生きて欲しかったんだ」


 私は泣いた。大粒の涙を流し、大声を上げて泣いた。


「……そういえば、喉が渇いた。ここまで来るのに、無我夢中だった、からな」


 私は黙って頷き、ポケットの中を探った。あったのは、たけやんからもらった午後ティーだった。


「午後ティーか……今、何時だ?」

「……深夜二時」

「午前じゃないか、じゃあ飲めないな」と、たけやんは何故か心底残念そうに言った。

「何でよ。飲んだら良いじゃない……」

「駄目だ。午後ティーは午後に飲むもんだ。それがワシのルールだからな……」

「そういえば――」私はヒロコさんの言葉を思い出しながら言った。「ルールと網タイツは、破るためにあるのよ」

「網タイツか……」たけやんは鼻で笑い、「それは確かに破りたいな」と午後ティーを受け取った。私は受け取るんかい、と内心でツッコミを入れながら、どうやらヒロコさんだけでなく、オトナは皆網タイツを破りたい生きものなのだと知った。


「美味い……」言いながら、たけやんは一気に飲み干し、顔をくしゃっとさせた。それは、たけやんのいつもの笑みであり、同時に彼の死に顔ともなった。





 それから数年後、隣町で身元不明の遺体が見つかったというニュースが世間に流れた。

 暗いトンネルの中で見つかったそれは、見るも無残な姿で、生前の面影などは一切なかったのだという。そんな世にもおぞましい事件に、近隣住民は恐怖したものだ。



 しかし、それは今の私にとっては興味もなければ、関係もない話。

 私はただ、キーを片手にロッカールームを歩き回っていた。


「791番、791番……」と、ロッカーに書かれた番号を見ながら、目当ての番号を探す。そしてその番号はやがて見付かった。

「お、あった、あった」と、キーを差し込み、回す。ロッカーは開き、中には黒いバッグ。――そう、私のバッグだ。

「ゆきなー! 見つかった?」ヒロコさんの声だ。

「うん、あったよー」

「……んもうー、自分が荷物を預けたロッカーくらい、ちゃんと覚えときなさいよー」

「ごめん、ごめん」私は言って、バッグを片手に彼女のもとへと駆け寄った。

「待った! コイン忘れてる」

「あっ」私は慌てて踵を返した。ここのデパートのコインロッカーは良心的なもので、使用後に百円が戻ってくるタイプのものだった。

「平凡な会社の、平凡な事務のあんたには百円だって貴重でしょー。しっかり管理しなよ」言い、ヒロコさんは歩きだした。

「は、はい……」私は苦笑を浮かべて返却口に手を伸ばした。そして取り忘れた百円を摘まもうと指を動かす。――が、指は空振りする。

「あれ?」と、私は手元に目を向ける。と、そこにあるはずのコインが消えていた。私は慌ててロッカーの番号を確認した。791番だ。間違っていない。


 次に、私は周りを見回した。が、誰もいない。そもそもロッカーから目を離して五秒足らずだ。誰かが居たとしても取れるものだろうか。いたとしたならば、それは正に職人だ。

「ん、職人……?」そういえばそんな話、昔聞いたことがあるな。


 私はもう一度だけ横を見てみた。すると、ロッカーの陰に消える、黒いつなぎ姿が見えたような気がした。

「まさか……ね」

 私は踵を返し、ヒロコさんの背中に追い付こうと駆けた。百円を盗られたばかりにも関わらず、私の気分は何故か妙に弾んでいた。





【完】

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